一魚一会で いただきまーす♪ 【おさかな料理教室(中津市) 】
大分県漁業協同組合 女性部部長 岡﨑 都さん
よく晴れた初夏の中津市南部公民館、朝から多くの男性が集まってきました。皆さん、調理室に入るとエプロン&バンダナ姿で楽しそうに会話を交わしはじめます。
今日は年10回開かれる男性料理教室の日。当日参加の男性たちは初老から70代前後のシニア世代の方が大半ですが、エプロン姿で厨房に立つその姿からは、元気ハツラツとしたホンキ度が伝わってきます。九州と聞くと「男子厨房に入らず」という言葉を思い浮かべる方も多そうですが、そんな時代は遥か昔のお話のようです。
苦手に思われがちな魚料理のイメージを変えていきたい
料理教室を主催するのは、中津市食生活改善推進協議会(以下「食推」)南部支部。中津市内に15の支部があり、各地域で食を通じた健康づくりや郷土料理の普及、食育を推進しています。なかでも男性向けの料理教室は23年も前から行われてきた、人気の教室です。
朝から食材のチェックや下ごしらえに大忙しの女性たちのリーダーは、食推南部支部理事の岡﨑都さん。実は、大分県漁業協同組合の女性部部長という顔も合わせ持っており、ご主人も漁師をされています。漁協女性部では、より多くの人に魚を食べてもらおうと、学校や各種行事など様々な場所に出向いて魚食の推進活動にも取り組んでいます。
料理初心者にとって魚の調理は「さばくのが苦手」「小骨の処理が面倒臭そう」と敬遠されがちですが、教室を通じてそのイメージを払拭したいとも考えているようです。この日の男性料理教室は、食推理事と漁協女性部部長という2つの顔を持つ岡﨑さんの活動がシンクロした、郷土料理&魚食の教室といえます。
そんな教室の本日の献立は、ハモ料理。蒲焼・フライ・湯引き・すまし汁と、地元の名物であるハモを使った料理に男性9人が挑戦します。 「ハモは5月くらいから夏へ向けて旬を迎えます。だから料理教室では毎年この時期になると、ハモを使った献立が登場するんですよ。このハモもウチの主人が今朝、漁で獲ってきたばかりです」
豊前海で獲れたばかりの活きのいいハモが、どう調理されていくのか、ワクワクしてきました。
ハモの骨切り発祥の地・中津でハモを相手に大立ち回り
とはいえ、ハモは簡単に調理できる魚ではありません。ご存知のように身に多くの骨があるため、細かく包丁を入れる骨切りの作業が必要になってきます。
「こんな感じで切っていくんですよ」
お手本を見せる岡﨑さんの包丁がリズミカルな動きを見せ、その度にゴリッゴリッと、心地よく骨が切れる音が聞こえてきます。見ていると簡単そうですが、皮一枚を残して身に細かく包丁を入れてゆくのは高度な技術が必要。ほとんどの参加者は毎年ハモ料理を体験しているそうですが「一年ぶりのハモだから、骨切りとかすっかり忘れているから、初心者同然。こりゃ難しいわぁ(苦笑)」と悪戦苦闘。まな板の上でヌメる身を押さえながら、「ゴツッ」「ゴゴリッ」と不規則なリズムで骨切りに挑戦します。
「アッ、皮まで切れてしもうた」
「切る間隔が広すぎや」
あちこちからこんな声が聞こえてきますが、どこか楽しそう。そして、真剣そのもの。
実をいうとハモの骨切りは、江戸時代の中津藩から発祥したという説があります。令和の中津人にも、その血が流れているのかもしれません。
そんなこんなで、どうにか骨切りされたハモの身は、食推のみなさんのサポートを受けながら、焼いたり、熱湯にくぐらせたりしているうちに、盛り皿には見事なハモ料理が並びました。
家庭でも地魚の味を楽しんでもらいたい
お待ちかね、参加者全員でテーブルを囲んで食事会が始まります。
「おっ、こりゃあウマいわ!」
「やばいっ、やっぱり骨が残ってたかぁ!」
賑やかで楽しいランチタイムが過ぎてゆきます。岡﨑さんは話します。
「みなさん、この教室に長く通ってくれている人がほとんどです。だんだんと腕前が上達して、料理を楽しんでくれているのがわかります。それを見ている私たちも嬉しいし、楽しい。中津沖の豊前海は、栄養たっぷりの山国川の水が流れ込むため、多種多彩な魚が獲れる漁場でもあります。ハモ料理といった独自の食文化が生まれたのも、豊かな自然の恵みがあってこそ。ご家庭でも地元の味を楽しんでもらいたいですね」
これまで台所に立つ機会が少なかった方もいるなか、老若男女に限らず、料理の楽しさと地元食材の素晴らしさに目覚めてもらえば、「このうえない歓び」と語る岡崎さん。 「よしっ、今夜は俺が料理の腕前を見せてやるぞ!」
この日に参加した勇ましき厨房男子たちの姿が、目に浮かんできました。
岡﨑さんにとっての「魚食」とは
いろんな場で魚の美味しさをアピールできる格好の料理文化。魚に触れる機会を持つだけで、距離がグッと近くなりますよ。