たくさん並んだ魚から一尾両手で持つ店主

市場お墨付き、大分のお魚マイスターと話しませんか【おさかなランド明野店(大分市)】

JFおおいた直販店 おさかなランド明野店 店長 薬師寺 稔さん

店の前で魚を両手で一尾持って見せる店主

 多種多様なおさかなが集う「おさかな大浴場おおいた」。では、その魚はどこで手に入るのか?今回は、その日に獲れた鮮度の高い大分県産魚がゲットできる、市場直送の鮮魚店をご紹介します。
 大分市街地から車で15分ほどの商業施設「トキハインダストリー あけのアクロスタウン」=通称「アクロス」の食品フロアにあるJFおおいた直営店「おさかなランド明野店」。早朝から店長の薬師寺稔さんを密着取材してきました。

市場で魚を選ぶ店主
市場での魚の競り
市場での買い付け結果を紙に各店主
市場内で何かを指さす店主
その日の魚は、その日の朝に競り落とす

 5月の第4金曜日、まだ薄暗い朝5時の大分市公設地方卸売市場。既に大勢の市場関係者が競りの準備で場内を慌ただしく動いていました。 「おはようございます! 今日はよろしくお願いします!」
 威勢よく声を掛けてきたのは、番号札が付いた青いキャップをかぶった薬師寺稔店長。まもなく始まる競りに向け、ヤル気満々の表情です。事前に競り落とす魚の目星をつけておくべく、さっそくトロ箱の魚に目を光らせて下見をする店長。「あちこち動くので、しっかり付いてきてくださいね」と言われたとおり、いざ始まると、忍者のように魚種別に分かれた複数の競りの現場を飛びまわります。
「850、850……¢£%#&□△◆■!?」
 素人には呪文のように聞こえてしまう卸売人の呼びかけに、ここぞとばかり手でサインを送って目当ての魚を競り落とす。なかには数秒で決着がつく魚もあり、よくわからず見ていた自分も不思議とスカッとした気分になりました。
 約30分ほどで競りは終了し、競り落とした魚をトラックに積み込んで、おさかなランド明野店へ向かいます。

開店準備で買い付けた魚を取り出す店主
開店準備で刺身盛を作る店主
開店準備で魚に値付けをする店主
開店準備が終わった大量の魚の陳列ケース
極上の魚が欲しければ開店と同時に足を運ぶべし

 8時過ぎにアクロスへ到着。競り落とした魚を運びこみ、開店準備に取り掛かります。
 常時30~40種ほどが揃う店頭の魚の仕入れは、この道30年超の薬師寺店長の重要な任務。目利きで仕入れた旬のものやその日の売り出し商品は、お客さんが一番多く行き交う場所に配置し、魚の色合いのバランスを見て並べます。鮮度の高いうちに調理した刺身はもちろん、大きなネタがのった寿司、じっくり味が染み込んだ煮魚など、店内でつくった商品もズラリ。
 取材当日は5月の第4金曜日。実は毎月第4金曜日は「おおいた県産魚の日」と題して、月替りで趣向を凝らした販売を実践しています。大分県産の水産物を、より多くの人に知って、買って、食べてもらいたいという思いから、県内の水産業界が一体となって盛り上げようと始めた取組です。この日のおさかなランドは「津久見フェア」を企画。「津久見の漁場で育った魚は脂のノリが良く、太り方も違って獲れる量も多い。シメ方も丁寧で、良質な魚が揃ってますよ」と薬師寺店長。店頭には今が旬の真アジ、天然ダイ、イトヨリ、モイカなどが次々と並べられていきます。これは朝一番に足を運んで買い物カゴに入れなくては、という気分になってきます。
……あれ、パック詰めの魚が少ない!?
 そう、おさかなランドでは市場で競った姿のままの魚が冷蔵ショーケースに並ぶ、いわゆる昔ながらの魚屋さんのような対面販売を行っているのです。
 今ではほとんど見る機会が少なくなった対面販売を、漁協直営のおさかなランドが実践するのには理由がありました。

開店後の店内の様子
開店後にたくさんの魚が並べられたケース
開店後お客様と話をする店主
会話こそ、また買いに来たくなるきっかけに

 9時半のアクロス開店と同時に、お客さんは一直線におさかなランドへ。ざるとトングを手に取り、一匹一匹をじっと見る姿は、さながら「面買い(つらがい。目視で重さや質を見極める)」をする競りと同じ風景。
「〇〇産のアジはある?」
「今日は煮付けを食べたいんだけど、どの魚がおすすめ?」
 お客さんから矢継ぎ早にスタッフに声を掛けてきます。おさかなランドの特長は、消費者との仕切りがないこと。会話ナシでパック詰めの魚を売って終わるのではなく、幅広い世代のお客さんと直接話をすることで、いま何が求められているかも把握できます
「魚を好むご年配のお客さんは、焼き魚や煮付けだけでなく、ひと味違った食べ方を聞かれることが多い。かたや若いお客さんからは『この魚の美味しい食べ方を教えて』とか『料理がしやすいよう下処理をしてほしい』といった会話が飛び交います」
 ちなみにおさかなランドのスタッフにはベテラン主婦もいるので、料理のアレンジはお手の物。さまざまな年齢層、ライフスタイルに合った食べ方や調理方法のアドバイスが出来るのだそう。その場でアタマを落としたり、三枚におろしたり、直接希望を聞いたうえで手を加えて渡せば、そのまま家庭に持ち帰り、魚を美味しく食べていただける。「そうすると、また魚を食べたくなるでしょうからね」と薬師寺店長。
 周辺地域の住民だけでなく、市外から足しげく通う常連客もいらっしゃるとのこと。
「目も舌も肥えているお客さんが多く、常連さんになると魚の重さと産地で選ばれています。私たちも、お客さんから育ててもらっているのと同じで、日々勉強の繰り返しです」
 対面でのコミュ力の高さが、よりよい店づくりに繋がっているのです。

開店後ヤリイカやトコブシが並んでいる様子
開店後魚の値札を触る店主
消費者と漁師の橋渡しに

 店頭に並ぶ旬の魚は、同じ魚種でも産地はそれぞれ。薬師寺店長には、仕入れる魚にこだわりがあります。
「同じアジでも、丁寧に扱われているかどうかで産地を選びます。これに加えて、大きさ、厚み、そしてお客さんが買いやすいサイズをピンポイントで競り落としています」
 基準サイズの中でも丸々と太っていること、そして活きがいいかどうかを決め手にしているそうです。
「私がいいと思った魚は、ほかの買受人も同じように狙っています。ただし私は負けず嫌いな性格ですから、絶対に譲りませんけどね(笑)」
 おさかなランド店長の役得は、市場では漁師の方の声を、店頭ではお客さんの希望を聞くことができること。いわば両者の橋渡しの役割を担っているのです。
「漁師が命がけで漁に出て、精魂込めて獲ってくる魚を無駄にせず、その思いをお客さんに届けて満足してもらう。一方でお客さんが食べたいと思う魚を漁師に伝え、漁に出てもらう。両方の味方である自分は、高すぎず、安すぎず、ちょうどいい値段で需要と供給の循環ができるよう、魚の価値を消費者に理解してもらえる売り方をしていきたい」
 気合いたっぷりに、そして魚への愛情たっぷりに、自らの思いを話してくれた薬師寺店長。大分の魚のお話を聞きたくなった方は、おさかなランドへ足を運んでみては。

薬師寺さんにとっての大分の魚とは

 ケタ違いにうまい大分の魚は、自信を持って売ることができる「プライド」が詰まっています。県内に点在する全ての市場が胸を張って出荷する魚は、どこにも負けませんよ!

市場内でカメラの方を向く店主