旬の魚が集結する大分の台所【大分市公設地方卸売市場】

大分魚市株式会社 営業部長 東 則次さん

年が明け、日常が動き始めた令和6年1月5日。大分市公設地方卸売市場の初競りへ行ってきました。場所は大分市街地から車で約10分、釣りのポイントとして知られる豊海(とよみ)地区にあります。「新年早々、縁起物にあやかれそうだ」と初詣に出かけるような気持ちで、ワクワクしながら足を運びました。

3時前、とれたての魚が積み込まれたトラックが次々と入ってくる大分市公設地方卸売市場。
市場の目覚めは朝3時

星が輝く早朝3時に市場へ到着。そこには大型トラックが連なり、運ばれてきた商品の荷下ろしをする、すでに働く人たちの姿が見えます。

大分市公設地方卸売市場は、中央卸売市場として1977年に開設認可が下り、同年に水産物部が業務開始。2006年に地方卸売市場となりました。水産物や野菜、果実など、私たちの生活に欠かせない生鮮食品を鮮度の高い状態で適正な価格で安定して流通させるための大切な役割を担う場所。令和4年の取扱量は、水産物部は1年間で約7,193トン、1日に換算すると約28トン、約100種類の水産物が大分県内をはじめ全国、世界中から集められています。

トロ箱からはみ出すほどにまるまるとした「かぼすブリ」。サイズごとに手早く仕分けられます。
臼杵市泊ヶ内漁港から直送されたアジ。鮮度バツグンの状態でこれから競りにかけます。

吐く息が白く煙る場内にはトロ箱が積み上がり、着々と競りの準備が進んでいました。大分県は豊前海や豊後灘、別府湾、豊後水道と海に恵まれ、それぞれで水揚げされる多種多様な水産物がこの市場にひしめきます。大分県産で年間を通じて特に多く扱われるのは、養殖では全国2位の生産量を誇る養殖ブリなどのブリ類(天然ブリやヒラマサ、カンパチなど)、次いで魚の王様と言われるマダイ、豊後水道の特産で知られるアジ類がベスト3にランクイン。大分の代表格である魚たちが数多く出荷されています。

初競りを前に並ぶ旬の魚を見渡すと、所狭しとブリ、マグロ、アジ、カンパチ、トラフグ……。

と、ここでちょっと気になるネーミングのブリを発見。「臼杵酔いブリ」。酔っ払いのブリ? いやいや、聞くところによると酒かすを混ぜたエサで育てることで、うま味とコクが増す新しいブランドブリだそうです。大分県では「かぼすブリ」をはじめ、「美人鰤」、「若武者」、「漢(おとこまえ)麹ぶり」など、近年は数多くのブランドブリが登場しています。“生産量全国2位”にあぐらをかくどころか、いかに美味しさを極めるか、養殖業者も気合いタップリです。すべての大分県産ブリをチェックして、味比べをしてみたくなりました。

ほろ酔いのブリ発見!? 地酒の酒かすで育った「臼杵酔いブリ」。
乾燥を防ぎ、鮮度を保つためにシートで保護し、しっかり氷を打って商品を並べます。
マグロ解体職人の見事な包丁さばきに釘付け

この日、市場を案内してくれたのは、卸売(おろしうり)業者である大分魚市株式会社営業部長の東則次さん。「こんな朝早く、しかも寒い中、よぉ来たなぁ」と目の覚めるように元気な声で出迎えてくれました。

東さんは大分県臼杵市の漁師の家に生まれ、県内の水産高校を卒業して現職に就いた、この道46年の大ベテラン。長年の知識と経験で「良い魚」を見極め、美味しい魚を家庭まで届けてくれるマイスター的存在です。

「競りの前にマグロを解体するんやけど、見ちいかんかえ」と東さん。フォークリフトで持ち上げられた2メートル近くある巨大な箱から取り出されたのは、重さ60キロの養殖クロマグロ。その立派な姿に圧倒されていると、これまた見たことのない長さの包丁で解体を始めました。

「マグロの良さは、水揚げする時の電気ショックの痕跡を見れば一目瞭然や」

素人にはわからない鮮度の見分け方があることに驚いているうちに、サクサクと手際よく解体を進めていきます。実は東さん、マグロを解体すること40年以上の超ベテランなのです。マグロ解体職人として鮮度・味・価格など正確に判断できる知見はお墨付きで、大分県内だけでなく九州全域で開催されるマグロ解体ショーに引っ張りだこという事実が何よりの証拠。その鮮やかな包丁さばきに見惚れていたところ、気がつけば艶やかな赤身のサクが目の前に並んでいました。

クロマグロに手際よくロープをかけ、颯爽とフォークリフトに乗って解体の準備をする東さん。
冗談を交えながら大分弁で説明をしつつも、まなざしは「マグロ解体職人」。天下一品の技が光ります。
大トロの部分はすでに売約済み。その日のうちに大分市内の高級料亭へ。
威勢良く響く声とともに競りがスタート

活気あふれる早朝のボルテージが高まるなか、いよいよ初競りの時間へ。5時半の初競り式で令和6年の大漁と安全を祈願した後、卸売人が高らかに鳴らす「ピーッ」という笛の合図でスタートしました。

新春早朝に水揚げされたアジや、競りの直前に神経締めしたトラフグなど、活きのいい魚が入ったトロ箱が一面に並べられ、臨場感あふれる駆け引きが繰り広げられます。漁師や漁協から仕入れた鮮魚を競りにかける側が「卸売業者」。対する「買受人(かいうけにん)」は、場内に店舗を構える仲卸(なかおろし)業者、スーパーや鮮魚店などの売買参加者たち。美味しい魚を見極めるスペシャリストが勢揃いの様相です。

4桁の業者番号が付いた帽子をかぶった買受人たちはトロ箱の周りを囲み、お目当ての魚を見極めるべく目を光らせます。競り落としたい魚を見定めると、まず指で希望金額を示し、その金額を書き込んだ小さな手持ち黒板を卸売人に差し出します。

「ピーッ! 3,600円! えー、イチサンニーロク」

「ピーッ! 9,800円! えー、ヨンキュウマルマル」

卸売人は最高値が決まると笛を鳴らし、落札価格と業者番号を告げていきます。次々と競り落とされた鮮魚は買受人の手で店頭に並び、消費者のもとへ届けられていくのが一連の流れ。場内には仲卸業者の店舗が軒を連ね、プロの料理人や魚屋さんなどが、競り落とされたばかりの海の幸を見定めに来ていました。その風景は、さながら小さな商店街。普段何気なく食べている魚は、こうして幾人ものプロの目を通して食卓へ届けられているのです。

約1時間にわたって行われた令和6年の初競りは、約6トンの魚が取引されて終了しました。

狙いを定めた魚を競り落とすための、真剣勝負。まばたきをする暇がないほど、次々と取引が行われていきます。
大ぶりで身の引き締まった美しいアジ。大分県で3番目に多く扱われる魚種だけあって、この日もたくさんのトロ箱が並びました。
競り落とされた鮮魚は即座に場内にある仲卸業者の店舗へ。ここから売買参加者や買出人が購入し、市場の外の店にわたって消費者へと届きます。
大分の魚の美味しさを大勢の人に知ってもらいたい

競りがひと段落し、場内の片づけが終わった頃にはすっかり陽が高くなっていました。案内人の東さんも終業かと思いきや、「このあと、もうひと仕事が待っちょるんですわ」。

なんと地元ラジオ局のレギュラー番組で、魚の旬やレシピなどの情報を毎週発信している東さん。ちょうどこの日はオンエアの金曜日で、ラジオでも初仕事。大分の魚の魅力を知ってもらうこと、そして世の中の“魚離れ”を食い止めるきっかけになればと出演を続け、今年で10年目を迎えたのだそうです。

調理次第で魚の美味しさは無限に広がるんです。美味しい食べ方を伝えることで、より多くの魚の消費につなげていけたらと思います」

番組では、マグロ解体で見せてくれた包丁さばきに勝るとも劣らない流暢なオシャベリを披露されています。

安心して美味しく食べられる水産物を届けていきたいと、確かな目利きで向き合う市場で働く人たちの仕事ぶりが、大分で流通する魚の品質の高さと品ぞろえの幅広さを物語っているのだと、あらためて実感しました。

早朝から働く市場の皆さんのおかげで、おいしい大分の魚が毎日届けられています。

東さんにとっての大分の魚とは

大分県産の魚の価値は一言では語り尽くせません。海の豊かさが、魚の美味しさを育みます。食べ方を含め、海域ごとの旬の魚について丁寧に伝えていけば、全国の皆さんが大分の魚のうまさに気付いてもらえると信じています。