人と魚の 釣り糸一本勝負!【関あじ・関さば(大分市)】
佐賀関地区漁業運営委員長 須川直樹さん
大分県の佐賀関半島と愛媛県の佐田岬に挟まれた海域は「速吸の瀬戸」と呼ばれる一大漁場。瀬戸内海と太平洋の水塊がぶつかり合うこの海域は潮流が速く、餌となる生物が豊富なことで知られています。この海で佐賀関の漁師さんが獲ってくる魚は「関もの」と呼ばれ、昔から市場で高く評価されてきました。その「関もの」を代表する魚が、独特の身の締まりと豊かな旨みを持つ「関あじ・関さば」。日本におけるブランド魚の先駆けとして、今でも抜群の人気と知名度を誇っています。
佐賀関ならではの伝統漁法・一本釣り
須川直樹さんは、大分市佐賀関生まれ。若い頃は故郷を出て会社勤めをしていましたが、結婚を機に帰郷して、父親と同じ漁師の道へ進んだといいます。
「魚が多く獲れれば、それだけ稼ぎも多くなる。努力が結果として現れるのは楽しいし、家族を養っていくための仕事としても魅力がありました」
佐賀関の漁は一本釣り。それも釣り竿ではなく、一本の釣り糸に枝のように擬似餌をたくさんつけ、指先に伝わる感触をたよりに釣り上げる伝統の漁法です。
経験と勘を駆使してアジ・サバを狙う
佐賀関の漁は、日の出とともに始まります。須川さんも夜明け前の海へと船を繰り出し、30分ほどで漁場に到着しました。
既にほかの船も漁を始めており、多くの船影が早朝の波間に揺れています。このあたりの海底には大きな瀬(岩場)があり、そこに当たった海流が下から上へと複雑に噴き上がるのが特徴。狙うのは“瀬付き”のマアジやマサバです。須川さんによると本来、アジやサバは広い海を移動する回遊魚ですが、この海域には瀬に住みついているマアジやマサバがいるとのことです。豊富な餌でほどよく太り、急流を泳ぐために身が引き締まった瀬付きのマアジやマサバ。多くの人を魅了する「関あじ・関さば」の味わいには、こんな秘密が隠されていました。
「急流で育つ魚を狙うんじゃけん、私たちも急流のなかで漁をせんとね」と、激しく揺れる船内で準備を始める須川さん。魚群探知機の画面を確認しながら、狙ったポイントに釣り糸を投げ入れていきます。釣り糸には12本前後の擬似餌がついていますが、擬似餌の色や形、本数などは人それぞれ。100人の漁師さんがいれば100通りの道具と工夫があるといいます。
大きな波とうねりの中で、何度も船を移動させながら漁を続ける須川さん。「おっ、かかったよ!」と釣り糸を引き上げると、銀色に輝く大きなマアジが2匹、海面から姿を現しました。
厳格な基準は魚の質と鮮度を守るため
昼前に漁を終えて港に帰ると、すぐに大分県漁業協同組合佐賀関支店(以下「佐賀関支店」)の生簀へと船を横付けします。
佐賀関では獲れる魚も特別なら、その後の処理もまた特別。持ち込まれた魚を計量することなく、外見から大まかな重さを見極めて買い付けます。これは「面買い(つらがい)」といって、生きた魚を計量する時に魚が暴れて身が痛むのを防ぐ独特の方法。熟練の担当者が目視で魚の重さを量り、その場で値段が付けられていきます。
その日に釣れた魚は興奮状態にあるため、1日以上置いてから出荷するのも佐賀関支店のこだわり。出荷時には、包丁で動脈と脊椎を瞬時に切断して血を抜き、氷で冷やす「活けじめ」という処理を行い、出荷先に応じてその後に神経抜きをすることで身が硬直するのを遅らせます。最後には滅菌海水につけて鮮度保持を行うという、徹底した品質管理に驚かされます。
「単に“佐賀関で釣れたから関あじ・関さば”じゃないんですよ。佐賀関支店の組合員が、決められた海域で決められた漁法で釣り上げ、適切な処理を施された魚だけが『関あじ・関さば』と名乗ることができるんです」
“海の職人”が漁師なら、市場で働く佐賀関支店の人たちは“陸の職人”。多くの職人たちの努力によって「関あじ・関さば」は、最高の質と鮮度を保ったまま全国へと出荷されてゆくのです。
金色に輝く“関の誇り” ブランド
日本初のブランド魚として登場して30年。それまでは一部の関係者や料理人しか知らなかった小さな町・佐賀関は、今では「関あじ・関さばの町」として、全国的に知られるようになりました。その後、各地にブランド魚が続々と誕生しましたが、「関あじ・関さば」は高級魚のトップブランドとして、今なお特別な存在感を放ち続けています。
佐賀関支店から出荷される「関あじ・関さば」には、品質を証明するタグシールが必ず付けられています。金色に輝くタグシールは、佐賀関の海の豊かさと、そこで働く多くの人たちの心意気の象徴なのです。
須川直樹さんにとっての関あじ・関さばとは
関あじ・関さばは、長年かけて築き上げた信頼のブランドです。漁の決まりごとをしっかり守りながら、みなさんに最高の魚を届けたい。そしてこの伝統を次の世代につなげていきたいと思わせる存在ですね。