料亭の味を身近な食卓で楽しんでもらいたい 【ハモ(杵築市)】
JFおおいた 経済事業部 販売課(杵築) 課長役 長船長茂さん
ハモと聞いて、夏の京都で食す高級京料理が頭に浮かぶ人も多いことでしょう。なにしろ漢字で魚へんに「豊」と書いて「鱧」ですから、いかにもリッチな魚といったイメージですが、実は大分県は全国有数のハモの産地であり、関西方面でも重宝されています。古くから「豊の国」と呼ばれる大分だけあって、妙に納得してしまいます。
初夏の日差しが眩しい、杵築にあるJFおおいたの荷捌き・ハモ加工処理施設にお邪魔してきました。ハモは梅雨の時期に産卵を行い、梅雨明けから夏にかけて脂がのってくるため、取材をしたこの日はハモが格別に美味しい時期でした。
豊の国・大分の近海はハモ満足度100%の生育環境
杵築の荷捌き・ハモ加工処理施設は別府湾が一望できる美濃崎漁港にあります。大分でハモと聞けば中津が頭に浮かぶ人も多いでしょうが、杵築のハモも有名で「杵築鱧」としてブランド化もされています。
今回、ナビゲーターを務めてくださったのは、JFおおいたの長船長茂課長役。“長船”と書いて“おさふね”と読むそうで、いかにも海の男らしい苗字です。
「私の生まれは県南の佐伯で、この施設に着任する前は佐伯市米水津のブリ加工場で工場長をしていました。この施設は2020年にオープンしたのですが、稼働率を上げる使命を背負って来たものの、着任当初はコロナ禍の時期で苦労しました」
ハモはウナギ目ハモ科に属する魚で、その細長い体形と鋭い歯が特徴です。外見はウナギに似ていますが、ハモは海水魚で主に温暖な海域に生息する魚。特に瀬戸内海の沿岸はハモの好漁場として知られており、大分県周辺の海域となる周防灘・伊予灘・別府湾・豊後水道は、まさにハモの “豊”庫といえます。
水槽の中から睨みを利かす、暴れん坊のハモ軍団
「この施設で加工処理するハモは別府湾のものだけではありません。旬の時期になると中津、宇佐から佐伯まで、大分県中のハモが持ち込まれてきます。まずは現場をご覧ください」
長船課長役に案内され、まずは水揚げされたハモが運び込まれる水槽棟へ。そこには17トンの水槽1基、5トンの水槽6基が並んでいました。
「うわっ、すごい!」
水槽の中で整列する無数のハモの群れを見て、思わず声をあげてしまいました。しかし凶暴とは聞いていたのですが、意外と大人しそう……。 と油断していたら、とんでもありませんでした。長船課長役がヒョイと一匹、ハモバサミでつまみ上げると、バッシャバッシャと大暴れ。身体をくねらせながら猛然と抵抗し、大きく裂けた口からはサメのように鋭い歯、ギョロッとした目つきからして「海獣ハモラ」とでも呼びたくなってしまいます。ああっ、まな板をガブリと噛み付いて離さなくなった!!
「手掴みは危険ですからね。下手すると噛まれてしまいますよ。大分のハモは1匹あたり平均500グラムから1キロの重さで、体長は1メートルほど。大きいものだと重さ1.5キロ、体長2メートルくらいですかね。脂のノリもいいから評判は上々です」
冷静に説明しながら、まな板から引き剥がす長船課長役。まわりを見渡すと他のスタッフさんたちも、次々とこのヤバい連中をすくい上げ、鮮やかな手つきでシメていきます。
頭をスッパリ落とされたハモたちは、ヌメリ取りの作業へ送られていきます。施設にはヌメリ取り専用の機械があり、機械をくぐらすだけで高圧の噴射水でヌメリや不純物を除去していきます。そこから三枚おろしへと進みますが、ここでも専用の機械であっという間に処理されていきます。
骨切りマジックで、美味しくて安全なハモに仕上げてみせます
そして、いよいよ施設の見せ場、骨切り加工に入ります。
ハモには細かくて複雑に繋がった小骨が3,000本以上もあるとされ、普通の調理方法では食べにくいので「骨切り」と呼ばれる特別な調理方法が施されます。「おさかな料理教室(中津市)」でも紹介しましたが、ハモの骨切りは中津発祥という説があり、天領日田に招聘されていた京都の料理人が中津の漁師に骨切り技術を習って持ち帰ったのだそうです。骨切りには高度な技術が必要で、このハードルの高さが、いまひとつハモ料理が一般家庭で敬遠されがちな理由のひとつになっています。なにしろ「一寸(約3cm)の身に25本の切れ目を入れる」という教えがあるくらいですから、すぐにマネできるものではありませんよね。
「当施設にはハモ専用の骨切り機を装備しています。ベルトコンベアでハモを流していくと、超薄刃が細かく作動しながら2ミリ幅で正確に引き切りしていきます。いろいろと試しましたが、身崩れや食感を考慮すると、この間隔が最適ですね」
骨切り機を通して、鮮やかなスピード感で骨切りされていく様子は、まるで職人の名人芸そのものです。
「骨切りされたハモはプロトン凍結機で急速冷凍して、真空パックのうえ県内スーパーの店頭に並ぶものもあります。少しでも小骨が残っていたら評判を落としかねないので、加工前にハモを表面だけ冷凍するひと手間や、歯の研磨状態の確認など常に細心の注意を払っています」
加工施設には常時10名ほどの作業員がいますが、骨切り機は効率化だけでなく安全性確保にもつながっているのです。
おおいたんハモをより多くの消費者へ!
当施設の2023年度のハモ加工量は、入荷される原魚ベースで101トン、歩留まり後は約70トン程度で、1日につき平均200〜300キロ程度が順次出荷されていきます。今年は水揚げ量が増えているとのこと。底びき網で獲れたばかりのハモが美濃崎漁港から入荷されてくる様子は圧巻です。
ハモの盛漁期は5月から11月くらいまで。残りの期間は盛漁期の間にヌメリ取り前までの処理をしたうえで冷凍保存されたハモを適宜解凍し、骨切り加工を行っています。こうすることで、1年中安定した品質のハモを出荷することができます。ここで加工されたハモは、一般消費者向けのほか、外食産業にも出荷しており、県内外の業者からの引き合いも増えているそうです。
「ハモで採算を取るのは難しいと言われてきたのですが、ようやく軌道にのってきた感があります。自然相手なので、過去には獲れ過ぎて値段が暴落する日もあったのですが、加工場が買い支えることで、最近は極端に暴落することもなくなりました。また、ハモの知名度を高めるため、県内学校の給食に出したりもしていますが、せっかくの美味しさですからドンドン宣伝していかねばなりませんね」
ところで長船課長役は、ハモはどんな食べ方がお好みですか。
「個人的には天ぷらやフライなどの揚げものが好きですね。ハモには年に2回旬があり、産卵前の柔らかくあっさりした身質の『夏ハモ』と、産卵後、エサをいっぱい食べることで脂がのった身質の『秋ハモ』です。秋ハモを、しゃぶしゃぶや湯引きで食べるのも最高に美味しいですね」
お話を聞いているうちに、すっかりハモ推しとなってしまいました。まずは晩酌のおつまみに、ハモの天ぷらなんていかがでしょう。
■長船さんにとってのハモとは
杵築の漁師さんはハモで支えられていると言っても過言ではありません。美味しく安全に加工して、「おおいたんハモ」の価値を高めていき、より多くの人に食べてもらいたいですね。